●「死の棘」と「たんぽぽ」
島尾敏雄氏の日記が気になって、折りをみてはページを繰っている。細かなことはいいのだが、大事なことは知っておきたいのである。そうすれば、作品の読みあやまりもそうそう起こらないのではと思う。
一番の関心は、人間魚雷に乗るということ、それは、精神にどういう作用を及ぼすか。人間に強いられた待つという時間や、出発は遂に訪れずの時間を知ってしまった人、その稀な体験……。
奇妙なとりあわせだが、私は大切にしている小説が3つある。「死の棘」「死の棘日記」と川端康成の「たんぽぽ」である。真剣に読みぬいて好きとか思っているのではなく、何となく近寄ってくるのである。
島尾の場合はよくわかる「死の棘」と「日記」は相性がいい。現実とはそういうものだ。さんざん考えて、「死の棘日記」は成り立っている。島尾敏雄のよさがうまく出た作品である。文句のつけようがない。
私はすべての作品を、「日記」か「作品」かに区分けしようとしているわけではない。しかし何かの加減で幸福な例はあろう。小栗康平氏の映画「死の棘」である。映画「死の棘」は撮ろうと思ったこと自体がすばらしい。何か日記の本質を暗示してくれる気がする。小栗作品が好きな私にはなつかしい特集が出来たと、感謝している。
島尾氏は強靱な魂をもって「死の棘」を書いた。何か遠いことのようにみえて、実はこの特集のまわりのすぐ近くにいるという気がしてならない。ありがとうございました。
牧野十寸穂
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